その他(教育・研究)
第04回 (2001.10.31)
【 木曽山脈西縁断層帯馬籠峠断層(トレンチ調査速報) 】
苅谷愛彦・水野清秀・永井節治(1999)第四紀研究、38,59-64 にもとづく。
なお本ページは苅谷の責任で執筆しており、 トレンチ調査に関する内容の一部は産業技術総合研究所の公式見解と異なることもある。 同センターの最終報告は今後発表されることになっており、本ページでも紹介する予定である。

【図0】
馬籠峠(まごめとうげ)断層は、 長野県山口村峠地区から同県大桑村大平地区に至る全長約 20 kmの右横ずれ活断層で、 一般走向は北東-南西ないし北北東-南南西です。 上松(あげまつ)断層や清内路(せいないじ)峠断層とともに、 木曽山脈西縁断層帯南部の地形セグメントを構成しています (図 0;苅谷ほか、1999 の第 1 図を改作)。 また馬籠峠断層の南端は左横ずれ活断層として有名な阿寺(あでら)断層と近距離で接しています。

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【図1】
馬籠峠断層の最近の活動を示す露頭は長野県南木曽町一石栃(いちこくとち)地区での 道路工事に伴って出現し、同町在住の永井節治さんによって 1997 年に発見されました。 この露頭は永井さんと活断層研究室の水野清秀さん(現在:産業技術総研関西センター)、 および苅谷が詳しく記載し、腐植土層や埋没樹皮の 14C年代測定も行いました。 図 1 は露頭スケッチと、そこで得られた14C較正暦年です(苅谷ほか、1999 の図 2 を改作)。 この調査の結果、馬籠峠断層の最新活動は 8400暦年前から3800 暦年前の間に生じたことがわかりました。 しかし、この活動に先行する古い活動の実態や、地震 1 回あたりの横ずれ量などは不明でした。

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【図2】
一石栃地区付近を北へ流下する河川沿いには、2-3 段の土石流・河成段丘面が認められます。 とくに下り谷地区(図 0)の左岸には現河床から約 40-60 m 高位に位置する段丘が 比較的よく保存されています(図 2)。 この段丘は西方の山地から押し出した土石流堆積物で被覆され、地表は東に平均 7-10 度で傾斜しています。 しかし面上の一部に傾斜が不自然に緩くなる部分があり、 東側隆起の成分をもつ断層の通過が予想されていました(苅谷ほか、1999)。 馬籠峠断層の活動履歴をさらに明らかにするため、 産業技術総合研究所(旧地質調査所)活断層研究センターがこの段丘面上で最近トレンチ掘削調査を行いました。 なお、調査責任者は環境地理学グループ OB の宍倉正展さんが務めています。 また私は同研究センターの前進である活断層研究室にかつて奉職し、現在は併任協力しています。1997年7月。

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【図3】
図 2 とほぼ同じ方向に俯瞰した下り谷トレンチ全景です。 断層を直角にまたぐ約 5 m 間隔の南北 2 本のトレンチ(方位角約85度)が掘削されました。 掘削現場は水田なので(図 2 参照)、床土やその下位の段丘構成層を区別して掘削するなど 工事は慎重に行われました。青色シートに覆われているのは掘削土砂です。 トレンチは崩壊を防ぐため、壁面に 60-65 度の傾斜をつけ、深さ 2-3 m までバック・ホーで掘削されます。 その後、草かき鎌などで壁面を整形します。整形後は、スケッチ時に参照する 1 m 間隔の格子を掛けます。 現在、活断層研究センターによる詳細な観察と年代試料の採取が行われており、 2002年度中に報告書が公表される見込みです。2001年10月。

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【図4】
私が作った北トレンチ迅速スケッチ(原図 1: 100)の一部です。 上が北壁面、下が南壁面(倒立像)で、青方眼 1 マス = 0.5 m です。 なお、 地層や断層の認定、およびそれらの根拠となる観察は、 宍倉さんと二階堂さん(ダイアコンサルタント株式会社)のご意見を参考に苅谷が単独・独自に行ったもので、 時間の制約から一部不正確なところもあります。 また調査主体である活断層研究センターの最終見解(結論)と異なる可能性もあります。 以上のことを十分ご理解下さい。 南北両トレンチとも、地表には圃場整備で埋められた土砂が薄く堆積しており、 その下位に微細な炭化木片を多量に含む最大厚さ約 1.7 m の湿性クロボク土が現れました。 クロボク土は褐色・灰白色の土石流堆積物を覆っています。 土石流堆積物中の礫は拳大から人頭大の亜角礫で、粗粒砂-シルトの基質に支持されます。 数条の断層がトレンチ東部で確認されました。 最も東側のものは西傾斜の正断層、西側は東傾斜の逆断層のようで、 全体としては東側隆起のセンスをもっています。2001 年 10 月。

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【図5】
北トレンチ北壁面垂直グリッド 15番 (図 4 参照)付近に出現した逆断層です。 クロボク土下限(土石流上限)が切られているのを確認できます。 しかし断層上端はクロボク土の中で不明瞭となり、 どこまで到達しているのかを判定するのは困難でした。2001 年 10 月。

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★ トレンチログと写真の公開を許可下さった産業技術総合研究所にお礼申し上げます

馬籠峠断層:
JR中央西線南木曾駅か中津川駅からバスなど。
苅谷ほか(1999)の記載露頭は現存せず、看板のみ。トレンチは埋め戻し済。
変動地形は随所に残るが、 私有地が多い。立入りの際は関係者の了解をとる こと。


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