近況 2004年3月
 
 11月末から12月半ばにかけて、ファスビンダー監督の『ベルリン・アレクサンダー広場』の連続上映とシンポジウムを行いました。なかなか良いシンポジウムになったので、今は、そのシンポジウムの報告と合わせて、パネラー三名による補足論文も加えた「ファスビンダー特集」を人文研から秋に出す準備をしています。
 4月末に「ドイツ演劇研究会」を発足させます。これはゲーテ協会によるドイツ現代戯曲15本の翻訳集の計画に触発された活動で、ドイツ演劇をなるべく幅広く、狭い意味での研究のみに限定せずに扱う場として行きたいと思っていますが、まあ、どこまでできるのか、わかりませんが。
 あと、個人的に思い入れのある現代作品の翻訳も進めるつもりです。
 大学の方は教養教務委員長に再選されてしまったので、あと二年間、会議づくしの日々が続きます。
 とはいえ、例によって3月後半にベルリンとウィーンに二週間ほど行って、今回は15本の舞台を見てきました。以下に簡単な報告をします。
 
2004年3月ベルリン・ウィーン観劇報告
ベルリン
○14日 ウルリッヒ・ザイデル『主の祈り』 演出:ヨナタン・メーゼ 民衆劇場
   はじめにサラリーマンやキャリアウーマン、失業者、掃除婦等々の6名に神父を混   ぜて、ミサの連祷を延々とやり、その後は一人ずつが入れ替わり立ち替わり現れて   は「祈り」を行いながら、掛け合いも行われる。全体がキリスト教的な「祈り」の   パロディーで、クスクス笑いが続いた。特に苦行のパロディー場面は秀逸。
○15日 レッシング『ユダヤ人』 ベルリーナー・アンサンブル
   脇のアフォルターとベネントの二人の召使いが道化として見せる。坦々たる演出と   思わせておいて、最後にユダヤ人とわかった瞬間以降、融和の欺瞞を浮かび上がら   せる主人公の孤独の造形は、観客をハッとさせて、ポイントが高い。  
○16日 ピティグリーリ『コカイン』 演出:フランク・カストルフ 民衆劇場
   3時間もの長丁場。回り舞台と見えない中心とをビデオを駆使した混乱舞台だが、   ハチャメチャ度は期待していたよりは低い。
 17日 トーマス・ベルンハルト『ドイツ的な昼食テーブル』
       ベルリーナー・アンサンブル
   予習をしていても、バイエルン方言は、やっぱりわからなかった。最後のクイズ番   組部分はカット。さすがにインパクトは弱まっている。
 18日 ジャン・ジュネ『女中たち』 ドイツ座
   中年のクレールと老年のソランジュ、奥様は80歳というラインナップ。特に奥様   はほとんど座ったままだが、声はハリがある。老女優にブラボーだが、演出は平板。
○19日 ファルク・リヒター『エレクトロニック・シティ』演出:作者
       シャウビューネ劇場 
   左側に緑、右側の壁半分が巨大なスクリーン。全体がオーディションという枠?女   性二人と男性一人がコロスの役割で、「カット!」による中断多数。ビデオを多用   して、舞台と映像をシンクロしたりするが、やや退屈。もっと可能性のあるテクス   トだろうと思う。期待度が大きすぎて、かえって目が曇ったかもしれない。
◎20日 レッシング『エミリア・ガリッティ』 演出:ミヒャエル・タールハイマー 
      ドイツ座
   これはもう、いかにもタールハイマーらしい、「斬新」を絵で描いたような名舞台。
   正面奥からカッカッと歩いて来て、クルッと回れ右をして、またカッカッと戻って   ゆく。その間、言葉は一切無し。そういう緊張感のある舞台。
 同日  シェイクスピア『ハムレット』 演出:アヒム・フライエル
       ベルリーナー・アンサンブル
   ハムレットと国王、母親とオフェリアが、それぞれ同一人物という設定の妙とアイ   ディアで、それなりに見せるのだが、もうひとつ奥まで届いていない気がする。ウ   ルズラ・ヘプフナーが実に良い女優になっている。
◎21日 ブレヒト『母』 演出:クラウス・パイマン
        ベルリーナー・アンサンブル
   ベルリンの最後が印象的な舞台。ゴリゴリのイデオロギー劇を、パイマンらしい集   団アンサンブルの冴えでテンポ良くたたみかけてゆく。演劇は「解決」ではなくて、   「問題提起」なのだということを考えさせる。母親以外は全て白塗りの顔で、社会   主義賛歌という一見アナクロの内容を、本当にそうなのか?と問いかけているのは   明らか。
 
ウィーン
  22日 シェイクスピア『十二夜』 ブルク劇場
        退屈!
○23日 ゲルハルト・リューム朗読 アカデミー劇場
   ウィーン・グループのアヴァンギャルド詩人の朗読だが、「語りのコンサート     Sprechkonzert」と銘打たれている。いわゆるナンセンス詩だが、音楽的な構築に興   味がそそられて、色々と資料を買いあさってしまった。
○24日 ペーター・ハントケ『丸木船で行く』 グループ80
   小劇場とはいえ、グループ80のレベルは高い。テクストに忠実に進行する。随所   にユーゴ語を挿入して、逐次通訳なども行っていた。
○25日 イゴール・バウエルジーマ『モリエールのベレニス』演出:バウエルジーマ
     アカデミー劇場
   これは舞台美術が洗練の極みで、一見に値する。紗の幕が十数枚、天井からつり下   げられて、それが、あたかもバレリーナのように様々に移動しながら舞台を作って   行く。ベレニスをめぐるコルネイユとラシーヌの競争と、その陰にモリエールとい   う内容を、あえてバロック的な雰囲気にこだわって構成した喜劇。
 26日 ソフォクレス(ペーター・ハントケ訳)『コロノスのオィディプス』
       ブルク劇場
   ブルーノ・ガンツ、オットー・ザンダー、イグナツ・キルヒナー等々、ドイツを代   表する名男優をぜいたくに並べて、擬古調の名文・名調子を響かせるのだが・・・
○27日 ファスビンダー『ブレーメンの自由』 スカラ劇場
   これも小劇場で、客は30〜40名ぐらいだが、レベルは高い。舞台全体が水に浮   かぶ十字架。その水の中をジャブジャブと歩きながら、アコーディオンの弾き語り   が場面転換となる。リズムがあって、ダレない良い舞台。