2008年8月19日 白馬大雪渓 崩落事故に関連して<地形変化による土砂災害実績図の公表>

★ 2008年8月25日に公開した 解説文を大幅に修正しました (修正にともない,08/25にUPしたページは削除しました)
★大雪渓では,どんな土砂災害が,いつ,どのように起きてきたのかを解きます.大雪渓の自然と災害の本質を理解し,入山していただければと願っています.

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■白馬岳大雪渓ルートが落石の巣であることは,多くの登山書に記してあるとおりです.またインターネットの掲示板やブログで,大雪渓で落石を目撃したとか,肝を冷やしたと記述しておられる方もあります.さらに,現地では落石に注意するよう呼びかけた看板も建てられました.
■それでは,落石とは何でしょうか? 崩壊(地すべり)や土石流との違いは? また,これら以外に登山者の脅威となる自然現象は起きていないのでしょうか? 落石や崩壊は,いつ・どこで・どのように・なぜ,起きるのでしょうか?・・・
■実は,こうした疑問に対する答えは,これまでほとんどありませんでした.その理由として,大雪渓ルート沿いでそうした研究が進んでいなかったことがあげられます.山岳の研究は各種の制約が多く,室内実験のように上手くゆくとは限らないからです.とはいえ,2005年の杓子岳崩壊以降,私たちは現地でデータを集め,大雪渓ルートにおける地形の変化や土砂災害の概要をつかんできました.例えば,5月から7月の2ヶ月間に2000個以上の岩片が谷底の雪渓に落ちてきたり,直径4 mもの巨石が雪渓を滑り落ちることがわかってきたのです.地形学の視座からいえば,大雪渓ルートは程度の差はあれどこも同じように危険であり,確実に安全といえる場所や時期はほとんどないということです.
■ところで,「データがあるなら,登山者の安全のために,いち早く公開すべきだったのではないか」といった批判もあるかと思われます.もちろん,私たちも少しづつですが,「岳人」(東京新聞社)や「地理」(古今書院)などへの寄稿,市民も参加可能なシンポジウムでの発表(信州大学),グリーン・パトロール結団式(白馬村役場)での講演,白馬村役場への情報提供などを通じて啓蒙・啓発をしてきたつもりです.ただ,いつも気にしていたのは「大雪渓が危険視されると,お客さんが減って経済が落ち込む」という声なき声です[ 例えば,8月28日読売長野web版記事にそうした声が見られます].それゆえ,データの出し方や啓蒙・啓発の仕方には常に頭を悩ませてきました.
■火山学が専門の鎌田浩毅氏(京都大学教授)は,自然災害の現場では研究者の発言は重いものであり,研究者は誠実でなければならない,と戒めています(「火山はすごい」PHP新書208).これは,研究者の発言は地元を翻弄する場合もあり,研究者は地元とのつきあいに慎重でなければならないということでもあります.私たちも一方的に情報発信や意見表明するのではなく,地元の意見を尊重しつつ,地元で議論が起こるのを見きわめつつアクションに転じたほうがよいと考えてきたのです.そして,今後の研究の進め方や地元とのつながりを模索しているなか,8月19日の事故が起きてしまいました.
■事故から約2週間が経った9月3日,白馬村は登山道を再開する一方,雨量情報を積極的に登山者に提供するとの案を出してきました.一歩前進したかに見えますが,この案では雨による崩壊だけが危険要素とされ,他の地形変化(後述する落石や滑走岩片など)は考慮されていないか,軽視されている可能性があります.この状況をみるにつけ,私たちもデータの公開を躊躇している段階ではないように考えはじめました.大雪渓では落石や崩壊以外の地形変化もひんぱんに起きており,それらは全て登山者の脅威となりうるからです.
■ここでは,私たちがまとめてきた大雪渓での地形変化(土砂災害)の実績図を公開します.以下の解説文もお読みいただき,大雪渓のどこで・何が・いつ,起きてきたのかを,ご自身で確かめていただきたいと思います[ なお,雪崩による災害はここでは扱いません.].ただし,今のところ図面の多くは一般登山者用に作図されていませんので,理解しにくいところや改善の余地があると思います.不明な点・お気づきの点は苅谷へ連絡下さい.できるかぎり迅速に回答・対応します.私たちの成果が大雪渓の自然の本質を理解する基礎となり,安全登山の参考になれば幸いです.
(本文 1.はじめに より)

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2008/09/05 modified