その他(教育・研究)
第03回 (2001.10.12)
【 立山地域の地形と第四紀地質 】
原山 智・中野 俊・高橋 浩・苅谷愛彦・駒澤正夫(2000)
5万分の1地質図幅「立山」地質調査所 にもとづく

【図0】
立山地域の谷埋接峰面と主要な活断層(原山ほか、2000の第3図を改作)。 図中のオレンジ三角印は下図(写真)の撮影地点を示します。

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【図1】
立山・黒部アルペンルート「室堂ターミナル」から北へ歩き出すと、 天然記念物に指定されている山崎(やまさき)カールが右手に見えてきます。 水蒸気爆発の爆裂火口に生じたミクリガ池やミドリガ池、 または地獄谷を経由して雷鳥平テントサイトのある称名川の河床に下りましょう。 川を渡って急登にあえぐと、別山乗越に着きます。 ここから剱沢ごしに剱岳を撮影したものが図 1 です(原山ほか、2000 の図版III とほぼ同じ)。 美しいU字型の横断面からわかるように、 約 20000 暦年前をピークとする最新の氷期中には剱沢に氷河が存在したと考えられます。 また剱岳そのものにも氷が懸かり、山体を浸食していたと推定されます。 谷底にある剱沢小屋付近はハイマツに覆われた緩い高まりになっています。 これは氷河が残した岩屑の丘、すなわちモレーンです。 剱岳の右手には飛騨山脈北部の名峰、白馬(しろうま)岳が見えています。1996年 9月。

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【図2】
雷鳥平から大日岳に続く登山道は称名川右岸の急斜面に付けられており、 稜線にいっきに突きあげます。登りきった所が新室堂乗越で、その北側は立山川流域になります。 乗越北側の崖に火砕流堆積物とそれを覆う氷河堆積物を見ることができます (図1;原山ほか、2000、第 130 図とほぼ同じ)。 写真下半の黒い岩石と、上位の角礫層がそれです。 この火砕流は約 95000-120000 年前(ST・アイオニウム法)に噴出した称名滝火砕流堆積物で、 本地域の西半に分布します。この火砕流堆積物と、 長野県大町市周辺でよく見つかる立山Dテフラ(Tt-D)は同時期の噴出物です。 上位の角礫層は室堂周辺にみられる氷河堆積物(ティル)によく似ており、 氷河に直接関係したティルと考えられます。このことは、称名川側から立山川側に、 乗越をまたいで氷河があふれ出ていた可能性を示唆します。 もっとも、最近の氷河地質学の進展はめざましく、再調査の結果でこの解釈は変わるかもしれません。 1996年9月。

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【図3】
立山という独立峰は実在せず、雄山(標高3003 m)、 大汝山(おおなんじ;3015 m)および富士ノ折立(2999 m)の総称として使われます。 図は真砂岳から南に向かって内蔵助谷谷頭部のカールを撮影したもので、正面の山が富士ノ折立です。 秋というのにカールには雪渓が見えます。この雪渓は毎年越年し、底部は氷になっています。 この氷が数千年前または数百年前の気候寒冷期に生じた氷河の名残りと考える研究者もいますが、 結論にはまだ早いでしょう。雪渓の左手にはナマコ状の岩屑の高まりが複数見えます。 これは内部に永久凍土を持っており(または過去に持っていた)、 それが緩慢に移動してできた岩石氷河と考えられています。 岩石氷河は欧州アルプスなどでしばしば見られますが、 低標高で温暖な日本の高山では大変貴重な存在です。1996年9月。

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【図4】
美女平から天狗平にかけて展開する台地状の高原、それが弥陀ヶ原です。 図は美松平から西に向かって弥陀ヶ原を俯瞰したものです。 台地の土台は古い溶岩流や図 2 で見た称名滝火砕流からなります。 一方、地表付近はラハール(火山泥流)状の堆積物に覆われています。 この堆積物の真の運搬機構はよくわかりませんが、 室堂周辺では火砕流の噴出後に氷河が生じている(図2)ので、 その融解水(アウトウオッシュ)に関係したものかもしれません。 なお、原山ほか(2000)の地質図では表現上の制約から泥流状堆積物の表記を略しています。 弥陀ヶ原の地表にはミズゴケや草本が集積した泥炭や泥炭質土層が認められます。 厚さ約 1 mの土層の最下部に挟まれる 1 層の薄い火山シルトは、 本シリーズ第 1 回の平標山 で紹介した鬼界アカホヤ(7200暦年前)です。 弥陀ヶ原には谷を横ずれさせる活断層も存在します。1998年7月。

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【図5】
本地域を代表する地形として忘れてならないのは立山カルデラでしょう。 このカルデラは火山解体の一過程として、過去数万年間に形成されたものと考えられます。 現在、カルデラ内の広い範囲で大規模砂防が行われているので、 一般人の立ち入りは制限されていますが、 立山砂防工事事務所 が見学会を催しているので、 これに参加するのもよいでしょう。 図はカルデラの出口付近から上流側を見たもので、 正面右手にカルデラ壁が崩壊して生じた厚い堆積物(高さ約 100 m)が見えます。 崩壊発生地点(写真奥の雲中)の山名をとって鳶崩れとも称されるこの大崩壊は、 岐阜県河合村から立山カルデラまで達する跡津川断層の最新活動 (1854年4月9日[安政五年二月二十六日])に関係して起こりました。 膨大な崩壊土砂を富山湾に排出する常願寺川は、日本屈指の荒れ川として知られています。 1997年10月。

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【図6】
常願寺川の一支流である真川に沿って、シルトと砂、 泥炭の互層からなる厚さ約 100 m もの縞縞堆積物が分布します。 これは真川湖成層とよばれ、立山火山の噴出物(称名滝火砕流か水谷溶岩らしい) によって真川がせき止められて生じた湖沼の堆積物と解釈されています。 この堆積物には鬼界葛原テフラ(K-Tz、きかいとづらはら;95000-90000年前;ST・MIS法) が挟まれており、湖沼の形成時期を論じる手がかりを与えています。一 般に湖沼堆積物は水平をなしますが、跡津川断層に近接する真川湖成層は著しく撓曲変形したり、 火炎状の変形構造を示したりします。これは断層運動や地震動に密接に関係したものでしょう。 また氷河に近い所では氷縞とよばれる縞縞堆積物が形成されることがあるので、 真川湖成層も氷河の近傍で堆積したのではないかとする仮説もあります。 この点は今後の検討課題でしょう。1997年10月.

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立山地域:
富山地方鉄道線立山口と長野県大町市扇沢を結ぶ立山・黒部アルペンルートの利用が一般的。
ゴミは持ち帰ること。登山道・木道を外れて歩かないこと。 植物・土石の無断採取は法で禁じられている。


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